i文庫HDにデフォルトで入ってた「吾輩は猫である」。冒頭は知ってるけど読んだことないので読んでみました。まあロシアに行きたいと思いだしてから、「坂の上の雲」読んだりもしたし、昨今の社会情勢もあり、日露戦争直後の日本人の心情はこんな感じだったのかなぁ、という観点で読んでいました。105年前も「御維新前はあばたも大分流行ったものだそうだが日英同盟の今日から見ると」とか「かくのごとき前世紀の紀念を満面に刻して教壇に立つ彼は、その生徒に対して授業以外に大なる訓戒を垂れつつあるに相違ない。」とか言っていて、それは今で言う「昭和の風習」とか「20世紀的」とか言うのと全く一緒の切り捨て方で笑った。「僕なんか、そんなむずかしい事は分らないが、とにかく西洋人風の積極主義ばかりがいいと思うのは少々誤まっているようだ。」とか、それを受けて迷亭君に相対化させたりとか、こういう感覚も今とそんなに変わりない気がする。

「その時分の国民は生きてるのが苦痛だから、巡査が慈悲のために打ち殺してくれるのさ。もっとも少し気の利いたものは大概自殺してしまうから、巡査に打殺されるような奴はよくよく意気地なしか、自殺の能力のない白痴もしくは不具者に限るのさ。」というあたりはゾクゾクしました。その後「冗談と云えば冗談だが、予言と云えば予言かも知れない。真理に徹底しないものは、とかく眼前の現象世界に束縛せられて泡沫の夢幻を永久の事実と認定したがるものだから、少し飛び離れた事を云うと、すぐ冗談にしてしまう」とダメ押しにもまたクラクラきてしまいました。終盤の死臭の漂う感じがいいですね。戦争に勝った直後なんだけどやっぱりどうしたって暗い感じで、こういうベースがやっぱり日本なのかなぁ、とも思いました。そしてそういう日本人像も漱石が描写したから認識され、自覚されたのかもしれないので、鶏と卵なのかもしれません。